鳥衝突日本委員会

鳥衝突データベース

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アメリカでは、FAAがBSのデータをレポート提出という形で収集し始めたのは1990年ころからで、現在そのデータは完全公開されている。英国でも同様に1990年からデータ集積が開始されたが、ヨーロッパの他の国では、一般の例にもれず、それぞれの国が別個に対応しているので、まとまっているわけではなく、また情報公開についても米国ほど開示されている訳ではないので、まとまった話はできない。ここでは情報公開の進んだ英国と米国のデータベースについて述べる。

アメリカだけの問題ではないが、この報告データ収集については次の点を含んでおく必要があるだろう。つまり、基本的にこの衝突報告は義務ではなく、あくまで自主的報告に任されているために、また問題の特性上そうせざるを得ないので、データとして扱うには精度等について客観性に乏しい.また個々の報告についての統一性(consistency)にかけているので、いわゆる科学的なデータとしての品質は良くない。

そのために、衝突実態としての統計を取る上で、多少のバイアスもかかり、また絶対値を求めるには疑念が入らざるを得ない。また報告数そのものも全体の2割ほどであろうと言われていて、全体像を表しているかどうか注意する必要がある。

この報告制度は、これまでは紙面による報告提出であったが、近年ITを使った電子式、さらにはInternetを使った直接入力方式に変わったために、報告が容易になった。さらには鳥衝突事故が大事に至るケースが続いたり、世界各地での事故情報がメディアやInternetによってすばやく伝わるようになったために、関係者stakeholderの意識が上がって、報告件数が増加したとも言われているのである。

その他いくつか問題を指摘することは可能ではあるが、その過去のデータを解析・分析することは、事の本質の一部を捉えることができるから、その重要性に疑いの余地はない。

ここでは、米国と英国のデータベースについて概観し、そこから分かるいろいろな事象を見ていくことにする。

米国FAAは1990年に5200-7という報告様式を制定してデータの収集を開始し、1990年から2003年までの14年分の報告をデータベース化して、その報告をまとめている。それによると、この14年間に全体で52500件の報告があり、データベース化された。

これは民間航空に関するものだけで、この他に軍用機にかかわるものが約6000件報告されている。2001年からは電子式報告が開始されているが、報告内容についての変更がある訳ではなく、報告方式が変わっただけなので、データベースとしては一体化されている。

英国でも、米国と同じ1990年からのデータが蓄積されているが、どの程度の分析がされているのか、報告数以外についてはまとまったものは見当たらない。

日本も含めて2009年に世界各国で、鳥衝突報告の記載項目が同じ形式のFormが用意され、運用開始された。その内容は別項で取り上げるが、恐らくICAOからの提案によるものと考えられる。その様式が英国CAAのFormと同一であることから、英国CAAが主導したのは明白である。この様式統一によって各国の取得データの整合性が確保され、精度の向上も期待できる。

特に国際間でのデータや分析結果を共有できることは、国際線飛行という特性を考慮すると、非常に重要なことと思われる。つまり同一の飛行機や乗員による離陸と着陸の2Movementが異なる国で発生しているのである。報告様式の共通化や結果の共有化により、より安全対策を取りやすくなるはずである。

あるいはデータの精度が向上することで、対策を立案する上でも、参考データが豊富になり、より効果の高い対策が立てられるのではないか。

北米BS会議で聞いた面白い例がある。現在、米国ではカナダガンが非常に増加して大問題となっている。ハドソン河での事故もカナダガンであった。一方、英国で同様な分析を行った結果、必ずしもカナダガンによる影響は見当たらないという報告がなされていた。

この会議は北米会議であったので、イギリス代表もあまり強調した見解を述べていた訳ではないので、筆者が後で直接英国代表に質したところ、「カナダガンは英国固有の種ではないので...」と言葉を濁していた。これなどはデータベースの精度が向上したことによって顕在化した例である。

データベースというのは、一般的に、蓄積しただけでは意味がなく、それをどう利用するかで、その価値が図られるし意味合いも異なってくる。そういう意味では、これから10年後に世界各地から集められたデータの分析作業は面白いものになるであろう。

一方日本でも報告はかなり以前から行われていた。ただし航空会社の姿勢によって報告内容や程度が異なっていることや、その詳細が公開されていないことなどから、その利用はあまり期待できない。ただし2009年に報告様式が統一され、今後はデータも公開されることになるとのことであるから、今後は期待しても良いのかも知れない。

データの公開にまつわる米国での話を紹介しよう。

ハドソン川の奇跡が発生した後、鳥衝突データベースの重要性が話題となった。その整合性や精度の向上をはかろうとすると、すべての報告者、特に航空会社(主にパイロット)から正直な報告がなされる必要がある。しかしその情報は航空会社にとってはネガティブ情報である。つまり事故に結びつきそうなケースも少なくない。また被害の発生による費用負担の問題などは経営を揺るがしかねない。

コンコルドのケースのように、機種そのものの廃止にまでいたる可能性もある。そのような背景があるので、各航空会社では報告に対する姿勢が異なっている。つまり正直に報告をしたものが損をする仕組みになりかねないのである。そこで米国FAAでは、この報告情報の公開を中止しようとした。そしてこの件を一般公開して意見を募ったところ、非常に多数の反対意見が提出され、結局は公開中止を見送ることになった。

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