鳥衝突日本委員会

ハドソン川の奇跡とはどんな事故?

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この事故の全体を少し詳しく振り返ってみましょう。事故はニューヨークのラガーディア空港の周辺で発生しました。この空港はニューヨークに三つある空港の一つで(他にはJ.F.ケネディ空港、ニューアーク空港があります。)、ロングアイランドの西北端にあります。海に面していますが、外洋ではありません。

USエアウェイズ1549便は2009年1月15日午後3時25分に離陸しました。この便はエアバスA320で乗員5名乗客150名の合計155名、搭乗機長はサレンバーガーでした。離陸時の操縦はスカイル副機長が担当、機は4番滑走路を北東向きに離陸して、その後は5000フィートまで上昇、その後転回して15000フィートまで上昇する計画でした。

その途上、離陸後約1分半経過した3時26分半頃に、カナダガンの群れが予定航路上の高度3200ftに接近してくるのを発見しています。そして機は3時27分1秒に鳥と衝突しました。この地点は緯度経度が40.83、-73,87で、空港から約5キロメートル、高度約850メートルで、空港のほぼ真北に位置します。衝突地点は空港からみて、水平約10°の高さに相当します。天候は晴れで北風19km/h。気温は-7℃、水温2℃の極寒でした。
ちなみにその後のコックピットの状況を簡単に記します。

衝突直後に機の風防ガラス窓が不透明になり、同時に大きな音が数回聞こえています。両方のエンジンが鳥を吸込み、すぐにほとんど全推力を喪失してしまいました。この時点でサレンバーガー機長が操縦桿を握ることになります。副操縦士のスカイルは3ページある緊急事態対応リストを調べてエンジンの再起動を図りました。

機長はただちに管制塔と交信して鳥衝突を報告。非常事態を宣言、空港への引返許可を求めました。そして、LaGuardia空港13番滑走路へ引き返すように指示を受けます。しかし引き返すことは不可能とみて周辺のTeterboro空港への緊急着陸の許可を要請。管制官はただちにこの空港とコンタクトして許可を取りますが、機長は高度が低すぎて間に合わないと判断して、ハドソン河への不時着を決心します。

LaGuardia空港管制官の報告では、ハドソン河にかかるジョージワシントン橋の上空900ft(250m)を通過したのが確認されています。機長は、着水90秒前に乗客に不時着体勢を取るようにアナウンスしています。そして、離陸後6分間の異常な飛行の後、3時31分にハドソン河に240km/hの速度で南向きに着水しました。

余談ですが、サレンバーガー機長は空軍の戦闘機パイロットを1980年まで務め、その後民間航空機パイロットになっています。安全管理担当者でもあり、同時にグライダー操縦も行っています。

衝突後の機長の判断と操作、不時着後の行動等に関しては、鳥衝突とは直接関連のない事柄なので、ここではごく簡単にだけ触れただけですが、この事故が鳥衝突事故の重大さとそれへの対策の重要性が広く一般大衆の関心を引起したのは事実でしょう。

衝突した鳥は、スミソニアン博物館の鳥類同定研究室(別項)のDNA検査でカナダガンであることが分かっています。 最低でも、#1エンジンに雌雄各1羽、#2エンジンに雌1羽が衝突、吸いこまれたことが判明していて、2台のエンジンが両方とも停止したことは明らかになっています。

別項でも述べますが、カナダガンは北米では近年その数を非常に増大していて、鳥衝突対策の最大の対象鳥となっているのです。
LaGardia空港は図に分かるように(地図)ロングアイランドの西北端にあり、北側が海面になっていて、その数km先にManhattann島の一部があります。実はこの部分にカナダガンが集まる開発地区があり、LaGardia空港を追い払われたカナダガンがそこに定住していることが分かっていました。従来カナダガンは移動性の鳥ですが、近年その数が増大したことで生活圏がせばまり、一部は定住するようになったのです。このような鳥の習性の変化を十分に考慮することも重要なことと考えられています。この場所は空港からはおよそ5km離れており、鳥のHabitat管理が必要とされている13km範囲の内側にありました。

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